カフェでコーヒーを飲みながら読書したりしていると、店内に流れている音楽が耳に響いてくるときがある。たとえほぼ満席で、四方から聞こえてくる人の声が途絶えなかったとしても。
今まで聴こえていなかったはずのものが、突然輪郭が露になり、バックグラウンドミュージックというよりは、カフェの中心を支えているような表立った音楽に変わる。この音楽は、表舞台に出るべき音楽だなと。ひっそり流れているだけではもったいないと。
素敵な曲だな、このメロディー好きだな、フルートの旋律美しいな、吹いてみたいな。目は活字を追っていても、耳は音楽を聴いている。
あるとき、たまたまスピーカーの真下の席に座ったことがあった。
マイナーなクラシックやジャズだったり、ボサノバだったり。カフェミュージックは知らない曲が多い。
何ていう曲なんだろう、今では簡単にアプリで調べられるからとてもいい。音楽を聴き取れる位置で曲名検索アプリを起動するだけ。
タイトルを知ったら、「この曲おすすめだよ」と誰かに伝えることもできる。もし便利なアプリがなかったら、メロディーを必死で歌って相手に伝えなければいけない。私は音痴だから、どれだけ頑張っても伝わらないだろう。アプリがあって本当よかった。
BGMをずっと聴いていると、途中で曲が切り替わることに気づいた。まだワンフレーズ終わっていないのにと、どこかもどかしさを感じる。おそらく10時とか11時とか、キリのいい時間でリセットされるようだ。
お気に入りの曲が流れているとき、唐突に切り替わると、予告なくシャッターを降ろされたようで所在ない気持ちになる。それでも、BGMを気にかけて好きの一つを増やしている私は、誰も見つけられない四葉のクローバーを見つけたように、優越感に浸っている。
2022.5.8